専門家が教える”正しいオフィスチェア”の選び方

前編では、座ることで生じる体への負担を学びました。
後編からは、いよいよ、椅子の選び方です。
脊柱がS字のカーブになるようにすれば、椎間板への負担は減らせるからそれで良いのではないですか?
窪田- S字のカーブをしっかり作れば、椎間板(椎間板の髄核)への負担は減らせるでしょう。一般的に、座っている状態で、立っているときの様にS字のカーブを作ろうとすれば、背筋をしっかり伸ばす必要があります。この姿勢を作るには、自分で背筋を伸ばす必要があります。つまり、背中の筋肉-脊柱起立筋と言います-をしっかりと働かせる必要があります。そのため、背筋を伸ばす姿勢、すなわちS字のカーブを作ろうとする姿勢は、筋が頑張らないといけないわけで、筋肉への負担は増すことになります。
うーん、なるほど。普通に座れば、S字のカーブが減少して、椎間板(腰)への負担は増えるけど、筋肉は頑張らなくていい。一方で背筋を伸ばして座れば、S字のカーブが強くなって椎間板(腰)への負担は減るけど、筋肉への負担が生じる、ということですね。椎間板か、筋肉か、トレードオフの関係ですね。
ただ、椅子のランバーサポートがあれば、椅子が腰を押してくれるので、筋肉の活動の肩代わりをしてくれるため、筋肉は頑張らなくて良い。だからランバーサポートを使った椅子を使えば、椎間板と筋肉への負担は減らせるのではないですか?
窪田- そうですね。ランバーサポートがついているオフィスチェアを使えば、椅子が腰を押してS字のカーブを作ることになるので、筋肉は頑張らなくて良いですね。しかし、ランバーサポートが出過ぎていたり、長時間使っていたりすると、ランバーサポートを避けるために、姿勢を崩すことが分かっています。これにはいくつか理由が考えられますが、少なくとも同じ姿勢でいることで、痛みが生じたり、筋肉や椎間板周辺の代謝輸送が悪化していく、と言えるでしょう。
皆さんも、長時間、座ってパソコンにむかっていたり、新幹線や電車、車にのっていたりすると、腰が痛くなったり、重く感じたりしませんか?
たしかに、ずっと同じ姿勢でパソコンにむかっていると痛くなりますし、新幹線に長いことのっていると、なんとなく腰がだるくなります。それに、椅子の背もたれを使って背筋が伸びた綺麗な姿勢で仕事をしていても、気が付くと姿勢が崩れていますし、背もたれはつかっていないことは良くあります。
窪田- そうなんです。結局、人間にとって同じ姿勢でいることは不快なことで、姿勢を崩してしまうんです。これでは、いくらランバーサポートがあっても、使えない、ということになってしまいますね。そして、一昔前にテレビなどのマスコミでも取り上げられていましたが、座りっぱなしの生活は、病気のリスクや死亡リスクを増加させるという疫学の研究が多数発表されています。
ではどういう椅子を選んだら良いのでしょうか?もう、座っちゃだめな気がしてきました。
窪田- 同じ姿勢でいるのではなく、定期的に身体を動かすことが必要です。そして最近は、椅子は、座っている環境でも動くことを許容する、あるいはサポートする、ということが重要だと考えられるようになってきました。実際に座っているときの体の動きを支える構造のオフィスチェアや、多姿勢に対応したリビングソファ、リクライニングチェアなどが開発されていますし、論文も出されています。
例えば、Steel Caseのleep chairは体幹の動きを支える構造になっています。また、オカムラのバロン、コンテッサ、イトーキのスピーナ、Herman Millerのアーロンチェアやミラチェア、いずれも非常に有名で高額なオフィスチェアですが、これらの椅子も、座ったまま簡単にリクライニングの角度や硬さ、いすの高さ、アームサポートの高さや向きを変更できるようになっています。簡単に調節ができることで、姿勢も簡単に変えることができるため、多姿勢をサポートできる、ということになっていきます。
また、オフィスチェア以外にも、VarierのEKSTREMはかなり奇抜ですが、多姿勢でリラックスして座ることができますし、Gravityもデスクワークから休息までに対応したリクライニングチェアです。このあたりの椅子を始めてみた時は正直かなり驚きました。
今、例に挙げた椅子はいずれも高額ですが、高額でないと良い椅子には巡り合えない、というわけではありません。
私は、自分の使っているオフィスチェアや車のシートを良く調節します。高さ、机との位置、アームサポートの位置、リクライニングの傾きや硬さ、ランバーサポートの大きさ等々、そのときの体調や気分に合わせて変えています。そして、操作しやすい椅子を選んでいます。
日本のオフィス家具メーカーの比較的安価なラインでも、豊富な調整機能や座りながら操作のしやすいモデルが複数あります。ですので、高級で高価でないといけないわけではありません。
なるほど、背もたれの動き、ランバーサポート、高さの調整などを、簡単に変えられるような椅子を選び、その時の自分のやりたいことに合わせて、積極的に調整しながら使えば良いんですね!
窪田- その通りです。そして、椅子を選ぶときは、まずどんな機能があるのか調べ、自分の体のサイズに合うのか確かめましょう。少なくとも、リクライニング機能、高さ調節機能は欲しいですね。こだわりたければ、好みに応じてランバーサポートの調節機能、アームサポートの高さ・傾き、ヘッドレストもあるとよいかもしれません。ヘッドレストは休息するときには便利です。アームサポートに対する注意点です。アームサポートは上半身を支えるための有用な機能ですが、あまり有効に使われていません。これは、サイズが全くあっていないためです。自分の肩幅に合うこと、高さが合うこと、が必須です。特に幅調整には限界があるので、よく注意しましょう。
椅子は、こだわりだすときりのない世界でもあります。予算と相談しながら、実際に座って確かめることが大切です。
窪田先生、ありがとうございました。今ある椅子でも積極的に調整しながら使い、新しい椅子を購入する際の参考にもさせていただきます!
窪田- 今日の話を通して、みなさんのオフィスワークが快適になれば幸いです。
窪田聡氏
国際医療福祉大学小田原保健医療学部/大学院福祉支援工学分野 准教授 博士(保健医療学) 作業療法士
身体機能の著しく低下した患者の座位姿勢に関する生理学的・生体力学的研究や、起立性低血圧によ関する循環・自律神経調節の研究に従事している。
https://www.iuhw.ac.jp/daigakuin/staff/cat/cat8/5794.html
https://sites.google.com/g.iuhw.ac.jp/satoshi-kubota-lab/home
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